Terry Gilliam監督作品 The Brothers Grimm
鬼才としか言いようのないTerry Gilliam監督の劇場映画最新作は、その1980年代の傑作 Time Bandits (1982。邦題『バンディットQ』)、The Adventures of Baron Munchausen (1989。邦題『バロン』)に類似したテイストを持つ近世ヨーロッパを舞台としたファンタジーとなった。ということは、説明は省くけれどあの Monty Python シリーズの流れも当然汲んでいる、ということである。
主演は今をときめくMatt Damonとこちらは余り良く知らないHeath Ledgerの二人。前者が兄のWilhelmで、後者が弟のJacobを演じる。英語読みなので、それぞれ「ウィル」、「ジェイク」なところが何とも面白いのだけれど(本来「ヴィルヘルム」、「ヤーコプ」ですね。)、それは兎も角、この映画は民俗学の父というか、現ドイツ地方の民間伝承収集者として画期的な仕事をしたグリム兄弟主演による冒険活劇となっている。
舞台設定としてはナポレオン・ボナパルト率いるフランス軍の占領していた現在ドイツのどこかで、グリム兄弟はそこで魔物退治を自作自演して大金を稼いでいる、というような感じ。でもって、とある村で起きた連続少女誘拐事件の真相究明に駆り出された二人は、永遠の生命と美を希求する500年前に死んだことになっている森の女王(確かに世界で一番美しいかも知れない Monica Bellucci が演じる。)と対決する羽目になるのだが、その顛末やいかに、というお話。
墓の蓋や女王の住む塔などに彫られた文様がケルト様式であったり、弟Jacobが村の人々の話をあたかも今日の人類学者や民俗学者のごとくこまめにメモしているところなどなどが何とも印象的だったのだが、それも含めて、この映画、その表面的な軽さとは裏腹に、当時であればナポレオンが体現していた覇権主義というか普遍主義と、一地方の民間伝承を基層に持つローカリズムとの対立構造を物語の重要な要素として描きこんでいたり、更にはこの監督らしく単に物語を語るのではなくメタな視線を端々に織り込んで物語構造の重層化を図る、ということが行なわれていたりと、なかなかに一筋縄ではいかない作品になっているのである。以上。(2005/11/21)