Christopher Nolan監督作品 『インターステラー』
数々の超大作を世に送り出してきたすでに巨匠になった感もあるクリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)監督が、その才能を余すところなく発揮した、上映時間3時間弱に及ぶ「SF」巨編である。
主演に本年のアカデミー賞主演男優賞がまだ記憶に新しいマシュー・マコノヒー(Matthew David McConaughey)、ヒロインにこれまた昨年のアカデミー賞助演女優賞を受賞したアン・ハサウェイ(Anne Jacqueline Hathaway)を据える他、マット・デイモン(Matt Damon)、マイケル・ケイン(Michael Caine)といった新旧の重鎮を脇役にそろえる。この監督の映画らしい、そしてまた今日におけるハリウッドのポテンシャルを示すなんとも豊潤かつ絶妙なキャスティングと言えるだろう。
さて、物語の舞台は近未来。地球は異常気象により絶滅に瀕している、という設定。そんな危機的な時代にやっとのことで家族とともにトウモロコシ畑を営んで生きている元宇宙飛行士のクーパーは、あるきっかけから「ラザロ計画」の実現に向け秘密裏に活動していた元同僚たち=NASAの面々と再会する。
その計画とは、土星近辺で発見されたワームホールを通って、移住可能な惑星を見つける、という、余りにもリスキーにしてかつまた壮大稀有なものだった。宇宙飛行士としての腕を買われ再び宇宙へと旅立つクーパーだったが、ワームホールの先にはいったい何が待ち受けているのか、そしてまた人類の、あるいはクーパーの命運はいかに、というお話。
確かに特撮もの、なのだけれど今では当たり前になったCGではなく、ひたすらセットとロケ撮影だけでやってのけたのでは、とも思える作りがなんとなくレトロ、ではなくむしろスタイリッシュにしてアーティスティックですらあるところがこの作品の第一の特徴にして見どころだろうか。考えてみると、『バットマン』シリーズも基本的にそういう作り方だった。このあたり、まさにノーラン節炸裂、な感がある。
この独特かつ壮麗な映像美に加え、これも重鎮と言えるハンス・ジマー(Hans Florian Zimmer)の手による基本的に管弦楽からなるサウンドトラックもこれまたなんとも素晴らしく、映画に花を添えていることも述べておかねばならないだろう。
ところで、間違いなく色々な人が指摘することになると思うけれど、この映画では確かに『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせるシーンが幾度も繰り返されるのだが、そこはそれ。これはオマージュ以外の何物でもない。
ここでは、最も重要なこととして、SF映画の最高傑作へのリスペクトをそこここにちりばめつつも、実のところこの映画ではかの映画とはかなりかけ離れたこと、すなわち「愛」について語ることに全力が注がれている、ということを述べておかねばならないだろう。
そうなのだ、SF超大作の意匠をまといつつも、この映画、実は単に表向きがそうであるだけ、という風に見ることも可能なのだ。
実際のところここで語られている一連の物理法則というか、「重力理論」と呼ばれているものって、ほとんどトンデモ理論じゃん、と言われても仕方のないシロモノ。しかし、繰り返しになるがこの映画の主眼はそこ=物理法則とか重力理論などでは決してない。そういうものはあくまで背景であり、全ては「愛」について語るための方便、とも言いうるのである。なお、その「方便」具合、要するに使い方が、なんとも味わい深く、かつまた素晴らしい、とも述べておこう。
最後に一言。この映画の出来栄えが端的に示している、いよいよ絶頂期に入ったかに見えるノーラン監督の、これでもか、と言うほどの爆発的な充実ぶりを、是非とも味わっていただきたいと思う。以上。(2014/12/1)